【小説第6話】たぬきからの脱出
「ふぅ……さんざんだったな……」 静まり返った夜の街。 ぜぇぜぇと肩を上下させながら、ジェリーはようやくショットバー「K」の店先に帰り着いた。 「ったく! こうなったら、飲まなきゃやってらんない!!」 明日の仕事は何のその。...
【小説第5話】たぬきからの脱出
青い爪先がジェリーのひじの辺りをつつ、となぞる。 「たたたた、楽しいこと……?」 もはや頭の中はそればかりだというのに、白々しく尋ねるジェリーは勿体をつけているわけではない。ただ単に意気地がないのだ。 「――もう。しらばっくれてもだーめ」...
【小説第4話】たぬきからの脱出
舞と共に訪れた彼女の自室は、「K」からすぐそこにあるアパートの一室だった。 一階のベランダは植え込みで街路から仕切られているが、大の男が力づくで侵入しようと思えば不可能ではないだろう。 「これは……張り込みが必要だなッッ!!」なんてもっともらしいことを言いながら、ジェリーは...
【小説第3話】たぬきからの脱出
そうやって身を乗り出されると、露出した胸元がより強調されて、目の保養……改め、大変目の毒である。 「いいいいかにもッ! 私が、あの! 名探偵ジェリーだッ!!」 視線をそらしたり戻したりしながら、ジェリーはそう言って得意げに胸を張る。心中では、彼女が自分のことを知っていたとい...
【小説第2話】たぬきからの脱出
ジェリーのグラスが空になる頃には、窓の外でこうこうと輝く月も、だいぶ低いところまで降りて来ていた。 明日も早いしそろそろ帰るか、と彼が重い腰を上げかけた、その時。 カランコロン、と軽快な音をたててドアベルが鳴った。 「――まだやってるかしら?」...
【小説第1話】たぬきからの脱出
ウィスキーの品ぞろえが自慢の隠れた名店・ショットバー「K」。 立派なウォールナット材のカウンターにもたれかかっているのは、この店の常連である一人の男だった。 「フフッ……。それにしても、人気者ってのは罪なもんだねぇ」 右斜め四十五度を見上げながら、恍惚とした表情で男は呟く。...